【ニューヨーク 12月4日】
本日、アメリカを代表する航空会社 パンアメリカン航空(Pan American World Airways/パンナム) が経営破綻に伴い、すべての運航を停止した。1927年の創業以来、約64年にわたり世界の空を結んできた名門航空会社が姿を消すこととなり、米国の航空業界と利用者に深い衝撃が走っている。
パンナムは、ラテンアメリカ路線の開設にはじまり、大西洋・太平洋横断飛行を切り開き、“空の国際線”の代名詞として世界に名を馳せた。戦後はジェット旅客機ボーイング707の商業運航やジャンボ機B747の導入など、航空史に残る革新を続けてきた。しかし近年は、燃料費の高騰、無差別テロによる航空需要の低迷、規制緩和後の競争激化が重なり、経営は急速に悪化。路線売却や人員削減による立て直しも実らず、ついに運航停止に追い込まれた。
本日未明、ニューヨーク本社は従業員に対し「全便運航を停止する」との通達を出し、主要空港のパンナムカウンターには戸惑う乗客が押し寄せた。マイアミ空港では、制服姿の客室乗務員同士が抱き合いながら涙を流す姿が見られた。長年勤務した職員は「パンナムの翼が消える日が来るとは思わなかった」と声を詰まらせた。
利用客の中には、パンナムとともに初めて海外へ飛び立った世代も多く、「青いロゴを見ると旅の高揚感を思い出す」「青春そのものだった」と名残を惜しむ声が相次いだ。ニューヨークの旅行代理店では、壁に貼られたパンナムの世界地図ポスターを写真に収める人々の姿も見られた。
今後、残された路線や発着枠、機材などの資産は他社に引き継がれる見通しだが、国際線の象徴としての存在感が大きかっただけに、航空業界からは「ひとつの時代が終わった」との感慨が聞かれる。各紙の論説では、「自由な空の時代を切り開いたパイオニアの退場」として、その功績を振り返る記事が並んでいる。
“世界を結ぶ青い地球儀のロゴ”で親しまれたパンナムは、今日、その長い航跡に静かに幕を下ろした。 アメリカの航空史を支えてきた名門の消滅は、多くの人々の記憶に忘れがたい節目として刻まれるだろう。
— RekisyNews 経済面 【1991年】
