“メアリー・セレスト号”、大西洋で無人漂流──乗員10名の行方不明、海事史上まれな怪事件

【ポルトガル沖 大西洋 12月4日】

本日午前、アメリカ船籍の商船 メアリー・セレスト号 が、乗員の姿を一切残さないまま大西洋上を漂流しているのを、英国船デイ・グラシア号の乗組員が発見した。船体は航行可能な状態を保っていたにもかかわらず、船長ブリッグス氏とその家族、乗組員ら 計10名の行方は完全に途絶えており、海事関係者の間では大きな衝撃が広がっている。

メアリー・セレスト号は先月7日、ニューヨークを出航し、ジェノヴァへ向け工業用アルコールの樽を積んで航海していた。発見地点はポルトガル・アゾレス諸島近海。デイ・グラシア号の船員が接近した際、帆の一部は張られたままながら舵は固定されず、船は風任せに漂っていたという。乗り込んだ船員は「船内は整然としており、争った痕跡はなかった。しかし、人の気配だけが完全に消えていた」と驚きを語った。

船内には十分な食料や水が残され、航海日誌も先月末の日付を最後に途絶えていた。積み荷のアルコール樽もほぼそのまま残っており、海賊の襲撃や略奪の可能性はほとんど考えにくい。唯一、小型ボートが消えていたことから、何らかの理由で乗員が避難した可能性が指摘されている。しかし、周辺海域では遭難者も漂流物も確認されておらず、脱出後の行方は依然として不明だ。

海事専門家は今回の事件について、「船体の損傷がほとんどなく、沈没の危険がない状態で乗員全員が姿を消すのは極めて異例」としており、突然の気象変化、積み荷のアルコール漏れ、船体の誤認による避難など、複数の仮説が議論されている。ただし、いずれも決定的な証拠には至っていない。

ポルトガル当局は船体を曳航し正式調査に着手すると発表し、アゾレス周辺の海域では追加の捜索が行われている。地元漁師は「この海域で船だけが残り、人が消えるなど聞いたことがない」と不安を口にした。

無人の船が静かに大海原を漂う光景は、乗員に何が起きたのかという深い謎を残したまま、海事史に新たな怪事件として刻まれようとしている。

— RekisyNews 国際面 【1872年】

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