【東京 11月30日】
歌壇の重鎮として知られる歌人・川田順氏(68)が、門下にあたる大学教授夫人とともに昨夜から所在不明となり、今朝までに家族が警察へ届け出たことで事態が表面化した。川田氏は近年まで宮中の歌会に関わり、温厚な人格者として知られてきただけに、突然の失踪は文壇と市井の双方に衝撃を与えている。
関係者の話では、川田氏と夫人は歌の指導を通じて親しく交わっていたが、家庭を捨てて旅立つほどの決意に至っていたとは周囲も察していなかったという。だが二人が同時に姿を消したことから、同行したものとみられ、親族や門下は動揺を隠せない。夫人側の家族も強い困惑を示し、近隣では「まさかこのような形で噂が現実になるとは」と驚きの声が上がっている。
さらに今朝、川田氏が友人筋に宛てて残したとされる手紙の一節が伝わった。そこには
「墓場に近き老いらくの恋は怖るる何ものもなし」
との一句が記されていたという。この言葉はたちまち各紙の見出しに躍り、街の話題をさらうこととなった。年齢を重ねた者の恋情を率直に言い切った響きが、戦後の不安と再出発の空気の中で、奇妙な共感と反発を同時に呼んでいる。
銀座の喫茶店では「恋は若者だけのものではない」と擁護する声が聞かれる一方、「家庭ある身で許されぬ」とする厳しい意見も強い。文学者の間でも、作品の情熱と私生活の選択をどう見るべきかで議論が割れており、単なる艶聞にとどまらぬ社会的関心を帯び始めた。
警察は各地の駅や宿泊先へ照会を続けているが、二人の足取りはまだ確定していない。川田氏は高齢であり健康面を案ずる声も多い。著名歌人の失踪と、その一句が生んだ“老いらくの恋”という流行語は、年の瀬の東京に重い余韻を残しつつ、当面世論の中心に居座りそうだ。
— RekisyNews 社会面 【1948年】
