【ブダペスト 11月20日】
作曲家グスタフ・マーラー(29)が手がけた大規模な管弦楽作品が本日、当地の音楽協会ホールで初演された。題名は「交響曲第1番」とされるが、プログラム上では「交響詩《巨人》より第1部」と紹介され、従来の交響曲概念に収まらない挑戦的な構成で来場者の注目を集めた。
指揮台に立ったのは当ホールの指揮者としても活動するマーラー本人。作品はゆるやかに目覚めるような序奏で始まり、民族舞曲の要素を含んだ楽想や、哀歌を思わせる静かな楽章など、多彩な表情を持つ全5楽章で構成されている。特に第3楽章では、葬送行進曲のような旋律が皮肉なユーモアを帯びて展開され、聴衆の間でも驚きのざわめきが広がった。
終楽章では、大太鼓の轟音とともに劇的な主題が現れ、金管が一斉に咆哮する迫力の展開へ。作曲家特有の感情表現の強さが全面に押し出された結末に、会場からは力強い拍手が送られた。一方で、一部の聴衆からは「構成が大胆すぎる」「従来の交響曲としては理解しづらい」との声もあり、賛否が割れた様子が見られた。
若きマーラーは、指揮者としての活動を続けながら作曲にも精力的に取り組んでおり、本作はその野心と実験精神を象徴する一作といえる。初演後の楽屋でマーラーは「この作品は私自身の人生と感情を形にしたものだ」と語り、今後の改訂も示唆した。
近年勢いを増す新世代作曲家の中でも、マーラーの名はとくに注目されており、本日の初演はその存在を一段と強く印象づけるものとなった。
— RekisyNews 文化面 【1889年】
