【東京 8月13日】
大蔵省は本日、明治通宝の新たな高額紙幣として百円券と五十円券を発行し、各府県の出納局を通じて流通を開始した。これらは従来の一円、十円札などに加わるもので、近年の経済規模拡大や大口取引の増加に対応する狙いがある。
新札はいずれも横長の洋式デザインで、洋紙に精緻な彩色と銅版印刷を施し、中央には額面とともに図案が描かれている。百円券は茶色を基調に鳳凰と唐草模様を配し、五十円券は藍色系統で龍と雲の図柄を用いた。偽造防止のため、細密な地紋や透かしが取り入れられており、印刷は洋式機械によって東京の造幣局で行われた。
今回の高額紙幣発行は、金銀貨の不足や地方での大口取引に不便が生じていた背景がある。特に鉄道建設や鉱山開発などの大型事業、海外貿易の決済では、これまで大量の小額紙幣や硬貨を運搬する必要があり、流通面での効率化が求められていた。
大蔵省紙幣寮の担当者は「新札の導入で商取引の迅速化と金融の安定を図る」と説明。東京の両替商は「見た目も華やかで、外国商人にも信用を与える」と歓迎している。一方、市井では「百円など庶民の手には届かぬ額」として縁遠く感じる声も聞かれた。
政府は今後も紙幣の品質改良と額面の多様化を進める方針であり、近代的な金融制度の整備が加速しそうだ。
— RekisyNews 経済面 【1872年】