【モスクワ 11月17日】
作曲家ピョートル・チャイコフスキー氏による新作管弦楽曲『スラヴ行進曲』が、本日モスクワの大劇場で初演された。近年高まるスラヴ諸国への同情と、負傷兵・難民救済のための慈善演奏会として開催されたもので、集まった観衆は作品の力強い旋律に深い感銘を受けた。
同曲は、セルビアとオスマン帝国の緊張が続く中、戦争で傷ついた人々への支援を目的に依頼された特別作品である。チャイコフスキー氏は、セルビア民謡の旋律を中心に据え、それをロシア軍楽の行進曲と交錯させる構成を採った。冒頭の重苦しい和音は戦場の悲痛を表し、中盤では民衆の祈りを思わせる低弦が響く。終盤は金管が力強く鳴り、スラヴ民族への連帯を象徴する壮大なクライマックスへと至った。
初演の指揮を務めたのはニコライ・ルビンシテイン氏。演奏後、場内は大きな拍手に包まれ、観客の一部は立ち上がって喝采を送ったという。チャイコフスキー氏は「困難な時代こそ音楽が人々を結びつける」と語り、今後も救護活動への協力を続ける意向を示した。
今回の慈善演奏会の収益は、戦禍に苦しむスラヴ諸国の負傷者や避難民の支援金として送られる予定である。芸術が時代の苦境を照らす灯となることを、改めて示す舞台となった。
— RekisyNews 文化面 【1876年】
