【レニングラード 10月29日】
本日、作曲家ドミートリイ・ショスタコーヴィチ氏の『ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調』が、ついに世界初演を迎えた。 会場はレニングラード(現サンクトペテルブルク)の大ホール、演奏はレニングラード・フィルハーモニー交響楽団、指揮はエフゲニー・ムラヴィンスキー氏、そしてソリストを務めたのは、この曲の献呈先でもある名手ダヴィッド・オイストラフ氏である。
この協奏曲は、すでに1948年に完成していたが、当時の政治的状況──“ジダーノフ批判”による芸術統制の影響──により、長らく演奏が許されなかった“封印作品”である。 それから7年を経て、ようやく今日、自由と創造の息吹とともに音楽ファンの前に姿を現した。
全4楽章から成る本作は、深い内省と不穏な緊張感、そして風刺的なエネルギーに満ちており、聴衆の感情を強く揺さぶった。 特に第3楽章「パッサカリア」でのヴァイオリンの独奏カデンツァは圧巻で、オイストラフ氏の超絶技巧と情熱が静寂の中に深く染みわたった。
初演を終えたオイストラフ氏は、「ようやくこの曲が日の目を見たことは、芸術の勝利である」と語り、作曲者ショスタコーヴィチ氏も深い安堵と喜びをにじませた様子だった。
ソビエト音楽史に残る“遅れてきた名作”が、ついに歴史の表舞台に立った。
— RekisyNews 芸術面 【1955年】
