【ニューヨーク 10月18日】
本日、アメリカの作家ハーマン・メルヴィル氏(32)による新作長編小説『白鯨(Moby-Dick; or, The Whale)』が、ニューヨークの出版社ハーパー・アンド・ブラザーズより刊行された。全635ページにおよぶこの大作は、一頭の巨大な白い鯨を執拗に追う捕鯨船長と、その乗組員たちの航海を描いた壮大な物語である。
語り手イシュメールの視点から語られる本作は、かつて南海で脚を失ったエイハブ船長が、憎悪の対象である「白鯨モービィ・ディック」を追い求める復讐の旅に出るところから始まる。物語には、詳細な捕鯨の記述や海洋の自然描写、神学・哲学的考察などが織り交ぜられ、単なる冒険譚にとどまらない重層的な構成となっている。
メルヴィル氏はこれまで『タイピー』『オムー』など南洋を舞台にした作品で名を上げてきたが、今作ではより実験的・文学的な筆致を試みており、一部では賛否が分かれている。詩的な散文や難解な比喩、聖書的引用を多用した文体は、読者に新たな読書体験を与える一方で、「読みにくさ」を指摘する声もある。
本作のテーマは一貫して「人間の内面に潜む狂気と運命」、そして「自然に対する人間の挑戦」であり、白鯨はその象徴として神秘的な存在感を放っている。批評家の間では、今後本作がアメリカ文学の重要作となる可能性を指摘する声も上がっている。
メルヴィル氏本人は、本作が単なる娯楽小説ではなく、「人間存在の根源に迫る書である」と語っており、今後の評価が注目される。
— RekisyNews 文化面 【1851年】