【パリ 10月15日】
本日未明、かねてよりドイツ帝国の諜報活動に関与した容疑で起訴されていた女性マタ・ハリ(本名マルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ、41)が、フランス陸軍によりパリ近郊ヴァンセンヌの要塞で銃殺刑に処された。銃殺は早朝6時頃、厳重な警備のもと、軍事施設内で非公開のかたちで執行された。
マタ・ハリはオランダ出身の舞踏家で、1900年代初頭よりパリを拠点に「東洋の神秘」を売りにした艶やかな舞踊で一世を風靡。軍関係者や外交官とも親交を持ち、戦時中はその華やかな交友関係を通じて各国の軍事情報を収集していたとされる。
仏軍の軍法会議は、彼女がドイツ帝国のスパイ「H-21」として活動し、フランスの軍事機密を敵国に漏洩していたと認定。7月に死刑判決が下され、上訴も棄却されていた。
銃殺直前、マタ・ハリは目隠しを拒否し、毅然と立ち続けたとされる。兵士に向かって微笑みを浮かべ、最期まで言葉を発することはなかったという。
一方で、彼女の関与がどこまで実質的な諜報活動に及んでいたかについては、今なお議論が分かれている。敵味方双方と接点を持った「二重スパイ」との見方もあれば、国家間の情報戦の中で翻弄された存在にすぎないという同情論も根強い。
華やかな舞台から一転、銃火に倒れた“女スパイ”マタ・ハリ。彼女の死が果たして正義であったのか、それとも戦争という時代が生んだ悲劇であったのか——。歴史の評価は、今後なお問われることになりそうだ。
— RekisyNews 国際面 【1917年】