【東京 3月18日】
日本初の全天候型多目的球場「東京ドーム」が本日、ついにこけら落としの日を迎えた。後楽園球場に代わる読売ジャイアンツの新たな聖地は、5万人近い観衆の熱気に包まれた。この歴史的な一日のハイライトとなったのは、昨シーズン限りで惜しまれつつ現役を退いた巨人のエース、江川卓氏(32)の引退セレモニーである。
「ビッグエッグ」の異名を持つ真っ白な大屋根の下、江川氏は現役時代の背番号「30」のユニフォーム姿でマウンドに立った。1980年代のプロ野球界を席巻したその剛腕。打者として迎えたのは、盟友であり最大のライバルでもあった掛布雅之氏(阪神)であった。江川氏が投じた最後のボールは、ドームの照明を浴びて白く光り、捕手のミットに吸い込まれた。場内からは地鳴りのような「エガワ」コールが沸き起こり、多くのファンが涙を流した。
江川氏はスピーチで「これほど素晴らしいスタジアムで最後に投げられたことは、野球人として最高の幸せです」と語り、ファンへの感謝を述べた。怪物の異名を取り、高校時代から数々の伝説を作ってきた男が、最先端の技術が集結した新しい時代の幕開けと共に、静かにグラウンドを去った。
東京ドームの完成は、日本のスポーツシーンが天候に左右されない「インドア・エンターテインメント」へと進化することを象徴している。人工芝の鮮やかな緑と、空調の効いた快適な空間。これからの野球界が歩む新たな歴史は、伝説の投手・江川卓の勇退という、最高にドラマチックな前奏曲をもって幕を開けたのである。
— RekisyNews スポーツ面 【1988年】
アイキャッチ画像 江戸村のとくぞう – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=77744807による
